月姫  (18禁同人ゲーム)

  前半は「ネタばれ」はほとんどありません。後半、断ってからは「ネタばれ」のオンパレードになっています。

 

メーカー 発売日 1プレイ時間 やってみて度

TYPE-MOON

5〜6時間 S

 

 ネット上での高い評価をきいて、初めて同人ゲームというものをプレイしてみたのですが.......、とても良かったです。2,500円の18禁同人ゲームでもここまで楽しめるのか、と目からウロコが落ちた思いです。
 こんなゲームが存在するのであれば、同人ゲーム界にも今後は目を光らせなければ、と感じさせる大作でした。

< Leafの「痕」に似た雰囲気をもつビジュアル・ノベル >

 父の死後、8年振りに良家の実家に戻った主人公が、巷を騒がす吸血鬼騒動に巻き込まれていく、というのがストーリーの導入部です。画面一杯にテキストが表示され、ところどころで選択肢が出てくるビジュアル・ノベル型のゲームです。
 てっとりばやくどんなゲームなのかというと、Leafの名作「痕」に雰囲気が似ていると思います。つまり、明るく楽しい学園生活の中で女の子と仲良くなる、というようなゲームではなく、オカルチックで非現実的度合いの強い、シナリオ重視のゲームです(メインヒロインが吸血鬼ですし)。えっ、「痕」をやったことがない?それはいけませんね。「痕」も「月姫」も、どっちもやりましょう。

 ヒロインは、吸血鬼・アルクェイド、学校の先輩・シエル、妹・秋葉、メイドの翡翠&琥珀姉妹の4組5人です。それぞれのキャラに対しトゥルー、グッドの2種類のエンディングが用意されています(例外あり)。このあたりも「痕」っぽいですね。

 ストーリー概要やキャラ設定は、製作者のTYPE-MOONのHPで紹介されていますので確認してみてください。若干ネタが割れるCGも掲載されていますが。

< 凝りに凝り、練りに練られたシナリオ >

  凝り過ぎ・やり過ぎ・くど過ぎで、結果的に1シナリオクリアに5〜6時間必要な、長い物語になっています。私が「同人」という言葉に対して持つ、「製作者がやりたいことを、やりたいように注ぎ込む」というイメージにしっくりきます。製作者と同じ嗜好を持つ人たちには、堪らないゲームだと思います。
 基本的に同じような雰囲気、同じようなテンションでシナリオが進行します。かなりの盛り上がりを見せるシーンをクリアし、ヨッシャ、これでハッピーエンドだろと思った後に、それ以上に盛り上がる山場が待っていたりします。全てのシナリオは同じキャラ設定からスタートしているにもかかわらず、その使われ方の違いが大きいためか、作品全体の統一感に欠けます。あるヒロインがメインのシナリオに、別のヒロイン達が絡んでき過ぎるため、メインヒロインの印象が薄くなったりもします。
 総じて、シナリオ全編にわたり気合の入りすぎ・盛り上げすぎで、メリハリが無いと感じたのが残念といえば残念なところです。

 逆にいえば、ゲーム序盤から魅力的なシーンの連続ということであり、ラストまで一気に読まされました。うっかり夜9時以降に始めてしまうと、次の日の仕事や学業に支障をきたすのはほぼ確実です。休日の前日、あるいは休日の朝っぱらからまとめてプレイすることを強く推奨します。
 特に、アルクェイド・トゥルーエンドのクライマックスからラストまでの一連のシーンは、気軽に再プレイができないほど心に響きました。また翡翠&琥珀エンドなどは、日本の旧家を舞台にしたミステリー調のストーリーにもなっていて、私がプレイした既存の18禁ゲームとは一線を画す展開を見せました。ホラー物はちょっと、という方でなければ、シナリオには満足できるのではと思います。
 ただし、アルクェイドとシエル先輩のシナリオについては、トゥルーとグッドの2つのエンドの雰囲気がかなり異なり、私は違和感を覚えました。大抵の人はまずトゥルーエンドに到達すると思うので、トゥルーで全キャラクリアした後にグッドを目指す、というのも悪くないと思います。

< Hシーンが熱い! >

 シナリオ重視のゲームならHは薄くてもいい、という私の考えを改めさせるほど、燃えさせるHシーンが続きました。どのキャラもHシーンになると、急にかわいく素直になったりするわけですが、そのかわいらしさの表現が私的にツボにはまったのかも知れません。製作者側も気合を入れたようで、かなりのCG枚数が割かれており、非常に濃密なHが楽しめます。ただ、Hシーンの展開がどのキャラも似通っている、というのは気になりますが。
 シナリオ重視のゲームはえてしてHが薄いとか、海のものとも山のものとも知れない同人ゲームだからという先入観は捨てても大丈夫だと思います。

< イベントCG150枚以上!原画はいいが塗りは甘い >

 CGは、イベント・立ち絵ともかなりのボリュームがあります。総CG数500枚以上との謳い文句は伊達ではありません。特に良いと思ったのは、原画が非常に安定しているところです。私は、「こいついったい誰だ?」とか「人間の骨格をしていない!」とか文句をいうことが多いのですが、このゲームでは枚数が多いにもかかわらずそのように思うことはほとんどなく、終始安心して見ていられました。表情の描き分けも申し分なく、原画については私はとても良いと感じました。「手」の描写は今一つだなと思いましたけど。

 一方で、塗りについてはあっさりしています。商業ゲームと比べると、もう少しがんばって欲しかったと思ったりもしますが、何せCGの枚数が下手な商業ゲームを凌いでいますから、これはこれで問題ないと思います。

< 曲数は少ないが、シナリオの雰囲気に合った音楽 >

 これは、と思う曲がたくさんあるわけではないのですが、シナリオの雰囲気に合った曲が10曲用意されています。明るい曲もあるといいなと思いましたが、そもそもシナリオにそういうシーンがあまり無いので、仕方がないのかもしれません。
 Hシーン時にかかる曲と、女性コーラスが入る曲がお気に入りです。

< システムも問題なし:テキスト読み返し機能は欲しい >

 システムは安定していて、ゲーム中に不具合は感じませんでした。ノベル形式のゲームに必要な機能は一通り備えており、特に不満はありません。ただ、一度表示されたテキストを読み返す機能があれば、もっと良かったです。
 また、既読メッセージのスキップは、ひとつのシーンを丸ごと光速ですっ飛ばす、シーンスキップとなっています。これはプレイ時間の短縮に非常に効果的である一方で、スキップしたシーンがどんなシーンであるかは全く示されないため、記憶に頼るしかありません。スキップ前にシーンの要約が出てきてくれれば、というのは完全に欲張りすぎですね。

< お勧めだが、入手するのはちょっと大変? >

 シナリオ、CG、音楽とも、一般的な商業ゲームに比べて見劣りする部分もあると思いましたが、逆に上回っていると思わせる部分の方が多く、結果として、お気に入りの商業ゲーム群と比べても遜色の無い満足感が得られたゲームでした。これが2,500円で買えるというのですから、私としては同人ゲーム初心者の方にも、非現実的でオカルトなシナリオに抵抗がなければ強くお勧めします。

 がしかし、評判の非常に高い同人ゲームということもあり、2001年3月現在、気軽にどこでもゲームを購入できる、というわけではありません。やってみようと思った方は、製作者であるTYPE-MOONのHPを継続的にチェックし、再販情報を見逃さないようにしてください。

(2001/03/08 記)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以降はネタばれ「あり」、というかプレイ済みの人にしか分からないような感想になります。そういうのはちょっと.....という方は、感想Topページへ戻ってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 各シナリオの感想を、攻略順に書いていきます。

< 1人目:シエル先輩 >

 RPGで、ボスキャラを倒したと思ったら真のボスキャラが待っていた、というのはよくある展開です。でも、さらに真の真のボスキャラが出てきて、さらに真の真の真の...........ということはあまりないですよね。
 1番目にやったということもあり、私にとってそういうボスキャラ的山場の連続に感じたのが、このシナリオでした。ラスト前のクライマックスに使ってもいいんじゃないかと思わせるシーンが、シナリオ前半から目白押しで、一体いつになったら幸せになれるんだ!と思ってしまいました。
 数あるトゥルーエンドの中でも、今後の幸せな展開を予感させるシナリオであったのが良かったです。時に優しく、時に強引な先輩というのは良いですね。人の横っ腹に、肘鉄を鋭角に叩き込むところも大好きです。

< 2人目:アルクェイド >

  トゥルーエンドに尽きます。あのロアとの戦闘シーンからラストの別離までの展開は、忘れられないものになりそうです。メインヒロインの面目躍如ですね。終盤でアルクェイドの孤独感をあれだけ煽られると、もうメロメロになってしまします。シナリオ的には一番のお気に入りです。
 しかし、グッドエンドの方はちょっとどうか、と思いました。いえ、グッドエンドだけならいいんです、ハッピーエンドは大好きですし。ただ、あの分岐の仕方でトゥルーとグッドの両方が共存する、ということに問題があると感じました。完全に同じ設定・展開から、最後の最後の選択肢を変えるだけで、まったく異なる2つのエンドに分岐します。これを「様々なシナリオをつむぎ出すことができる柔軟な設定」と評価するのか、「製作者自身の設定軽視、ご都合主義」と非難するかと問われれば、私は後者です。せっかく練られた設定があるのに、結局は製作者の胸先三寸で「何でもあり」の世界になってしまうのは、もったいないと思います。この傾向は作品全体に見られます。例えば秋葉は、シナリオによって強くなったり弱くなったり、悪役になったりもします。設定や展開を丹念に追っていけば、おかしなところは無いんだと思いますが、それでも違和感は残り、何かパラレルワールドっぽい印象を強く受けてしまいます。
 アルクェイドのエンドについていえば、せめてロアとの戦闘シーン辺りから分岐させてくれれば良かったのに、と思いました。あるいは、シエル先輩のグッドもそうですが、むしろおまけシナリオ的な扱いにしたほうがスッキリしたと思います。

< 3人目:秋葉 >

 「シナリオの追加を要求する!秋葉が幸せになるシナリオを見るまでは、我々は断固戦う!」と、私を含めた全国○万人の秋葉ファンのシュプレヒコールがきこえそうなエンドでした。あのトゥルーエンドは切なすぎる!主人公がひょっこり帰ってくる、という未来は私にはどうしても想像できないんです。秋葉にこそ、明確なグッドエンドを作って欲しかったと思います。
 また、ノーマルエンドも良いのですが、秋葉を天に帰すというエンドも大きく扱って欲しかったです。天に帰した後、秋葉から主人公に宛てた手紙が見つかって......という王道的シナリオも見たかったですね。
 それにしても、素直でないが兄にラブラブな妹キャラというのが、こんなにも素晴らしいものだとは知りませんでした。もう血がつながっていようがいまいが、キャラ的にはダントツに秋葉が良いです。シナリオは違いますが、夢魔に見せられる秋葉とのHシーンは、全Hシーン中でも最高でした。あの視線にやられました。

 また、前半の弓塚さんの話もグッとくるわけですが、これはちょっとやり過ぎじゃないかと思います。あの弓塚さんのクライマックスシーンはあまりにも盛り上がり過ぎるため、それまで秋葉とほとんど話が進展しないこともあり、私を含め多くの人は弓塚さんに心が傾いてしまうと思うんです。ところが、主人公は「弓塚さんのために」ではなく、秋葉の姿を思い出して「秋葉のために」、弓塚さんを殺してしまいます。これには共感できませんでした。弓塚さんは、翡翠&琥珀シナリオでの扱いと同程度にとどめた方が無難だったと思います。いっそのこと、サブシナリオ的に弓塚さん単独シナリオを作ってくれた方が良かったかも知れません。
 この傾向もまた作品全体に見られます。序盤から、たとえそのシナリオのメインヒロインではないキャラのシーンでも、とにかく盛り上げるんです。例えていえば、4番バッターばかりを集めたジャ○アンツの重量打線のようなものでしょうか。一打席一打席が、見るものを興奮させるのですが、それで試合に勝てるのか、というと必ずしもそうではありません。このあたりに、とにかく製作者がやりたいことを詰め込んだ、という同人ゲームっぽさが感じられました。

< 4人目:翡翠 >

 最後の最後で、おいしいところを琥珀さんに持っていかれた薄幸のキャラ。さらにいえば、秋葉ファンの私としては秋葉が死んでしまうシーンも強く印象に残るため、余計に翡翠の印象が薄くなってしまいます。どのシナリオもそうなのですが、特に翡翠シナリオの場合は他のキャラの活躍が激しく、メインのヒロインに集中できないという傾向が強いと思います。
 ですが、リボンを風に流すあのラストはよかったですね。さらに、あの上目づかい(?)で涙ぐむCGもかなりきました。

 私の場合、最も好きなミステリー小説が京極夏彦の「絡新婦の理」であり、同様な展開に耐性が出来ていたため、実は琥珀さんがというラストにはそんなに衝撃は受けませんでした。いきなりネタバレしてしまいましたが、「月姫」と同じく、この小説もお勧めです。

< 5人目:琥珀さん >

 翡翠シナリオとの連続技で、「月姫」の真の(あるいは裏の)ヒロイン役をさらっていってしまった琥珀さん。彼女が徐々に主人公に心を開き、最後に到達するあのヒマワリのCGは、全CG中でも一、二を争う素晴らしさです。Hシーンの2画面ぶち抜きのCGからも、製作者の意気込みが伝わってきます。
 だがしかし、秋葉命の私としては不満もあります。ズバリ、秋葉には美しく散ってほしかった。「.....だからこんな時まで、私は自分でしなくちゃいけないんです.........」という最高のセリフとともに、そのまま自ら命を絶ち、その後琥珀さんは生きていたと判明する、っという展開になれば、「月姫」の真ヒロインの地位は確実に秋葉のものとなったのになあ。えっ?翡翠シナリオに続いて2回も死なせたら可哀想だ?イエイエ、そんなことはありません。私に言わせれば、「あーあ、私も早くいい男みつけたいなー」なんてセリフを吐かせるほうが、よっぽど可哀想です!
 つくづく、秋葉のグッドエンドがほしいと思いました(上の方でグッドエンドがどうのとか、脇役が活躍しすぎるとか文句をいっているクセに、秋葉が絡むとこうなってしまいます)。

 

 

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