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やたらに燃えるシナリオ:キャラが薄っぺらい

現代日本を舞台に、魔術師の血を引く高校生の主人公が、サーヴァントと呼ばれる美形でやたらに強い人型の精霊?をパートナーに、聖杯と呼ばれる望みを何でもかなえてくれるというお宝を巡る戦いに参加する、というお話のボイス無しADVです。
  攻略ヒロインは主人公と契約する最高のサーヴァント:セイバー、ライバルとなる強気な魔術師:凛(りん)、優しい後輩:桜の3人で、ヒロイン毎に全く違う3ルートが用意されています。

中世ヨーロッパのいわゆる「剣と魔法の世界」を現代日本に持ち込んだ、シリアスなファンタジー系のストーリーで、3ルート合計で40時間にも及ぶプレイ時間の大半が戦闘シーン。これがかなり燃えさせてくれます。主人公達を含め7組の魔術師-サーヴァントのコンビの正体がなかなか明らかにされず、判明してみればこの手のお話が大好きなオタク心をくすぐる設定だったりして、ついつい引き込まれてしまいました。
  ヒロインとの恋愛についても、戦闘シーンの合間に入る日常シーンで適度に萌えさせてくれますし、共に生死のかかった戦闘をくぐり抜けていれば嫌でも盛り上がるというもの。デート等の恋愛イベントをもう少し追加して欲しかったですけどね。まあしかし、凛は萌えますよ。彼女はどのルートでも異常なほど活躍するので、猫っかぶり優等生系のヒロインが好きな人にはオススメです。
  そしてエンディングも、いくつかは私好みのせつな系の終わり方。総じて、ライターの並々ならぬ意気込みが感じられる力作だったと思います。

ただ、個人的に気に入らない点が多かったのも事実です。まずは主人公が中盤までは理想論を振りかざすガキンチョで、重要な場面でこちらがイラつく言動をとることが多いこと。猪突猛進型とも言えますね。シンクロ派の私にはキツい主人公でした。
  続いては、それまでの設定を余裕で飛び越える「何でもあり」の展開が目立つこと。当初プレイヤーに与えられる魔術師とサーヴァント、あるいはサーヴァント同士の力関係といった設定情報を、平気で破る展開が多すぎるんです。「あいつの強さは例外。こいつも例外。そいつには実はこうゆう裏設定が……」などと連発されると、こちらは「ああそうですか」と何がおこっても驚かない・感動しない状態になってしまいます。ザオリクを覚えたとたんに戦闘の緊張感が薄れるドラクエのようなもの。最終ルート(このゲームはヒロインの攻略順が決まっています)は特にヒドイです。通常は初期設定の範囲内で工夫し、ここぞというところで裏設定を明かす、というようにしてくれた方が私好みなのですが、これは個人差がありそうですね。「かつての強敵がピエロに成り下がるほどの強さのインフレをおこす少年漫画のバトルもの」を素直に楽しめるかどうかが分かれ目でしょうか。

そして一番の問題点は、キャラの言動が微妙に一貫していないため、感情移入が阻害されること。これは私の最も好きなヒロインである凛も例外ではありませんし、もっとも顕著なのは主人公だったりします。この状況で君がこんな行動とるの?っとツッコミを何度入れたかわかりません。例えば、最終ルートのラストバトルにおける凛の最後の最後の行動。あのシーンだけ切り取ってみればかっこよくできている、というのは分かります。しかし彼女が背負ってきたものやそれまでの展開を考えれば、あそこでああも「アッサリと」あんな行動に出るのはどうしても理解できない。何といいますか、キャラがみなライターの操り人形で、各々のシーンで都合の良い役割を演じさせられている………、キャラクターが劇中で地に足つけて生きてない、と感じるのです。
  そんなことは気にならん、という人の方が多いでしょうし、限られた製作期間の中で何を重視するかはメーカー次第な訳ですが、個人的にはもっと短くなってもいいので、キャラクター重視のシナリオにして欲しかったですね。ストーリーを動かすためにキャラに短絡的な行動をとらせ過ぎるのは、クセになる前に治した方がいいと思います。

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安定したCG:背景が美しい

イベントCGは差分を除いて158枚。十分と思いきや、シナリオがあまりにも長いのでどうしても足りないと感じてしまいます。質については塗りは申し分なく、特に朝焼けなどの背景が非常に綺麗で、せつなさ炸裂のエンディングの雰囲気づくりに多大な貢献をしています。キャラ絵も悪くない、というより私は原画買いだったりもするので、突発的に崩れた絵が出てくる以外は満足です。HシーンのCGも好み。Hの尺も長く、シナリオ重視にしては比較的抜きやすいHシーンだったと思います。陵辱無しのほぼ和姦オンリーですが。

立ち絵も表情パターンの豊富さは、私がプレイした中ではトップクラス。斜めヨコ向きの絵や裸立ち絵で原画家の技量不足が露呈することもありますが、こちらも私的には問題なかったですね。手が長すぎるのは気を付ければ直ると思うんですが、どうなんでしょうか。

オープニングアニメは2種類。こちらもエロゲ付属のものとしては高レベルで、OVAが楽しみになるデキでした。

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雰囲気にあったBGM:こだわりの効果音

BGMはボーカル曲2曲を含め、全38曲。単独で聴きたくなるような曲が多いわけではありませんし、全体的にシンプルな曲が多いですが、場面場面にあったBGMが流れていたように思います。ボーカル曲は個人的にはイマイチでした。
  私が好きなのはエンディング&エピローグでかかる「新たな夜明け」、戦闘シーンの「疾風の剣士」の2曲です。まあ、かかるシーン自体が好きなんですが。

効果音はかなりがんばっています。特に「ヒュン! キーン!ガキーン!  ........チャリ」みたいな剣戟の効果音のリアルさは、戦闘シーンの燃え度向上に非常に効いています。通常シーンにも料理や食事中の効果音があったりと気合いが入っていますが、私には逆に多すぎてちょっと五月蝿かったですね。

ボイスは無しです。かなり残念ではありますが、やたらと説明ゼリフが多いので、フルボイス化はちょっと無理っぽい、というより無駄でしょうね。パートボイスにしてほしかったところです。


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効果的な画面EFFECT:その他システムも良好

システムはなかなか。特にCGを拡大・縮小・回転するなどして、戦闘シーンを効果的に演出する画面EFFECTは、非常に良かったと思います。アニメほど動くわけではありませんが、紙芝居的なADV型エロゲに慣れているこちらにすれば、実際にアニメを見ているかのような錯覚を受けました。戦闘シーンだけでなく、背景の空間的スケールを強調する効果もあり。これは是非他のメーカーにも見習ってほしいですね。学園恋愛ものにはいりませんけど。

ADV型エロゲとしての機能もほぼ完備しており、不満点といえば機能選択時の反応がモッサリしていることと、メッセージスキップの切り替えが面倒なことの2点ぐらいでした(といっても、後者はかなりストレスが溜まる)。BGM鑑賞機能で全曲リピート再生ができるのもポイントが高いです。ユーザーサイドに立った、こだわりのシステムだったと思います。
 これだけ高機能ながら安定していて目立ったバグもない、というのも良かったですね。私のデフォ買いメーカーとは大違いです。

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体験版or前作が好きならOK:次回はキャラ重視のシナリオで

良いところも悪いところも、体験版から想像できるとおりのゲームでした。体験版が気に入った人や、前作「月姫」が好きな人なら問題なく楽しめると思います。逆に私同様体験版のキャラの言動に違和感を覚えるなら、この手のファンタジー戦闘系のお話が大好き、という人でなければ厳しいかもしれません。ただシナリオを除けば、新規参入メーカーの処女作としては驚くほどキッチリと作られているので、そんなに損したとは思わないでしょう。さすがに大ヒットすることを前提にお金をかけて作られた(んですよね?)ゲームだけのことはあります。話のタネにプレイしてみるのも良いと思いますよ。

個人的には上に書いたように、ライターの胸先三寸でいかようにも展開できる、キャラの言動だって七変化、という何でもありのシナリオがどうにも肌に合いませんでした。しかし、サーヴァントの一人であるアサシンの初登場シーンで燃えないヤツはいないだろ、とか、主人公と凛(とランサー)のラブコメで萌えないヤツもどうかしてる、と思うぐらい、シーン自体は気に入ったものが多かったのも事実です。次作は発売日買いはしないと思いますが、キャラ重視のシナリオで燃え&萌えさせてくれると嬉しいですね。

ちなみに私がキャラ作りが非常に良くできている、と思っているのはすめらぎの巫女たち。私同様すめらぎのシナリオがやたらに好き、という人だと、Fateのシナリオは合わないかもしれません。あまりにもマイナーなゲームなので参考にはならないと思いますけど。

ネタばれなしです。

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